私のなかで『やがて君になる』は好きを通り越して、大切で特別な作品になっていた。
コロナによる延期を乗り越えて再演を迎え、無事千秋楽まで走り抜けられたことに深く感動している。
舞台を振り返りながら印象に残ったことを書き留めておく。
踏切×階段の演出
踏切の演出に舞台の階段を組み合わせる演出がよかった。
切迫した空気感のなか、胸から溢れてくる好き。
原作全8巻の物語が凝縮された舞台だからこそ、前半の燈子からのキスと後半の侑からのキスの対比もより際立って胸をえぐってくるシーンだった。
傘で隠れていたキスが見られるように演出変更
ファンのご要望にお応えしてくれたのか再演で演出変更!
改めて思うけど、この舞台キスありすぎ……おいしすぎる……!
燈子と沙弥香の長年連れ添った夫婦感が再演でアップ
侑に応援演説の草稿を渡した後の会話とか、侑へ猛烈な接待をする時の「え~」とか。見ていて非常にほほえましかった。
実際に侑が来るまでの間、燈子と沙弥香の間で関係を築き上げてきた時間があったんだよなと改めて思わされた瞬間でもある。
頼りがいのある面が強くなった侑
初演の時は、小さな侑がちびちび動いているのがかわいいとか、等身大の女の子がこんな重たくて複雑な感情を背負わされていることの実感が強かったけれど、再演では頼りがいのある面が強く印象に残った。燈子の手をとって導いてくれたヒーロー。しっかり主人公していたなと思う。
最後まで逃げず向き合い続けた燈子
「侑えろい」の言い方が初演の時から変わった! encoreの方がいいと感じた。その後の甘いキスに繋がる流れがしっとりでいい。
燈子の等身大の幼さ、照れたり甘えたりする仕草が相変わらずかわいい。
と思っていると地雷を踏んだ瞬間、声のトーンががらりと変わる演技。
いやあ……某大場ななで培われた? 抜群の緩急を久しぶりに浴びました。
それでも今回の再演で一番印象に残ったのは、侑と沙弥香、二人から好きを告げられた後の演技。
こわいけれど、逃げちゃいけない。向き合わないといけない。大切な人に伝えないといけない。
ここの演技、演者の小泉萌香が『やがて君になる』を大切にずっと思い続けて、丁寧に最後まで向き合ってきてくれた姿勢がにじみ出て重なると感じた。
しんどいを受け止め続けてきた沙弥香が私たちに与えてくれたもの
侑も燈子も胸にくるものがあったけれど、沙弥香においては、なんかもうしんどいとかそういう次元を通り越して声出して客席で泣きそうになる場面が何度もあった。二回観劇しただけでも毎回しんどいよな……って胸しめつけられたのに、稽古の時から何度も演じている本人はどれほどしんどかったのだろうと考えると頭が上がらない。
台詞のないところでも沙弥香の燈子に送る目線がずっと切なかった。
沙弥香の告白シーンは原作の中でも特に思い入れのあるシーンだった。照明が燈子の小さな影を後ろの壁に映し出しているところもしっかり原作リスペクト。原作を読んでいた時も感じた、透きとおった尊い空間の演出ができていた。
「きっと 沙弥香じゃなきゃわからなかった ごめん沙弥香 ありがとう」
「好きよ 燈子」
「育ち続けて胸を破った言葉は たしかに燈子に届いたんだ 初めての 私からの 愛の言葉」
ここは声出そうなくらい涙がこみ上げてきた。
沙弥香はずっとつらくてしんどかったと思う。でも、自分は泣いているのに、目の前で泣いている燈子の目をハンカチで拭って、ちゃんと「好き」を伝えてくれた。
沙弥香が客席で観ている私たちに与えてくれたものは紛れもなく「救い」だった。
千秋楽のカーテンコールで「もしもいつか、沙弥香が幸せになる舞台があるのなら、その時は必ず私がやります」って言ってくれて、泣かずにはいられなかったな……ほんとに礒部花凜が沙弥香でよかった。
ブレないこよみ
ブレないこよみ、抜群の安定感。かわいいの好きじゃないと言ってる本人がフォルムや、しゃべり方からしてかわいいのズルい。理子先生に呼び出しされて肩すくめながらはけていく姿が好きだった。
朱里の存在があったから
男の先輩を好きになって、失恋し、また新しい恋をしていく朱里。舞台上で多くは語られなかったけれど、朱里の存在は、侑たちの物語が決して虚構のなかの世界のことではなくて、この世界の一つの物語だったんだと感じさせてくれる重要なものだった。侑たちがみんなとは違う存在ではなくて、あくまで同じ空に浮かぶ星なんだなと、侑とこよみと朱里が並んで仲良く話している姿を見ていると改めて感じさせてくれた。
帰ってきた堂島
堂島の「女子率上がるの大歓迎」を聞いた瞬間、私この台詞待ってたんだ、という思いがこみ上げてきた。原作を読んでいるときは、この台詞にそこまで引っかかりがなく読んでいたので、舞台の堂島がこの台詞を好きにさせてくれたんだなと改めて思う。帰ってきた堂島感あった。日替わり八ツ橋も含め堂島は非常に楽しませてくれる存在だった。
難しい役どころを演じきった槙君
槙君の声が澄んでて、いい声だったのが印象的。この舞台で槙の演技って難しいよなと前々から感じていて。乾ききっててもだめだし、冷たすぎてもだめだし。侑とのバッティングセンターの会話のシーンは、怒りとか冷たさとか乾きとかではなく、ただ幸せな物語をみたいっていう、観客側の気持ちを入れた上での台詞って感じがして上手いなと思った。
理子先生
安定の理子先生。再演では都とのいちゃつきも増えて、なんで二人の関係話しちゃったの! って都に迫りながらはけていくシーンがほほえましかった。
カーテンコールで「みんな幸せになりなさいよ~」って言ってくれて、まじ先生じゃんって拍手。
都「そうだよ」
沙弥香に理子と付き合っているのかと聞かれるシーン。初演では、その後の沙弥香の台詞を尊重してか、あっさり強調の「そうだよ」だったけれど、encoreは優しいほほえみを浮かべながら、まっすぐ伝えてくるような印象。原作読んでいた時の受け取り方はこちらの方がイメージに近かったので好感が持てた。
全体を通して都のいち女の子としての可愛らしさが出ていたのもよかった。理子とじゃれるシーンとか。ごめんって謝りながらはけていくところとか。でも、しっかりと包容力を感じさせるのは上手いなと感じさせる。
好きは届く
『舞台やがて君になる』改めて振り返ると、百合作品、いや漫画原作の作品全てを含めても、舞台化で1番心に残る名作だった。
アニメ化から引き続き、原作へのリスペクトが随所に感じられてファンとしてとても好感が持てる作品だった。
この物語を生きていた一人一人が、等身大の一人の人間だったこと。つらくて、しんどい思いを全部受け止めて、それでも幸せを掴むために前に進んでいく姿に何度も心を揺さぶられた。
ファンの「好き」を演者やスタッフがちゃんと受け止めて、この作品に熱を注いでくれたことにも深く感謝したい。
ちゃんと好きって思い続けて伝えつづけていれば届くんだって、この作品は思わせてくれた。
『舞台やがて君になる』に関わってくれた全ての方に。
ありがとう。
忘れられない舞台になりました。